準中型免許新設について(2015年6月8日)
修正・追記(2016年6月7日)

はじめに

ここにきて新しい免許区分の新設が現実化してきた。
「貨物自動車に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会」の基礎資料や全日本トラック協会が実施された協会員へのヒアリング結果資料の分析内容、 さらに全日本校長会議資料また業界紙の調査などを用いて貨物自動車に係る運転免許制度の在り方(以下中型免許改定)について有識者等が協議を重ね、概ね具体的な対策案が纏まったようだ。
今後は閣議決定された「道路交通法の一部を改正する法律案」として国会に提出、審議される流れとなる。
施行時期は交付日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行となる。

道路交通法の一部を改正する法律案(中型免許改定)は各種団体(トラック協会)等の熱望により新設するための障壁や克服すべき課題をクリアできる内容(案)を作成し纏まったようだ。
この中型免許改定はトラック協会等業界の抱える問題点の改善だけでなく、その他自動車関連業界の持続的発展に起因するくらい大きな改正とも捉えることができる。

運転免許制度の概要

免許区分

普通免許 車両総重量8t未満・最大積載量5t未満・乗車定員10人以下
大型免許 車両総重量8t以上・最大積載量5t以上・乗車定員11人以上
現行(平成19年6月~)
普通免許 車両総重量5t未満・最大積載量3t未満・乗車定員10人以下
中型免許 車両総重量11t未満・最大積載量6.5t未満・乗車定員29人以下
大型免許 車両総重量11t以上・最大積載量6.5t以上・乗車定員30人以上

交付日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行
(平成29年3月12日施行予定)
普通免許 車両総重量3.5t未満・最大積載量2t未満・乗車定員10人以下
準中型免許 車両総重量7.5t未満・最大積載量4.5t未満・乗車定員10人以下
中型免許 車両総重量11t未満・最大積載量6.5t未満・乗車定員29人以下
大型免許 車両総重量11t以上・最大積載量6.5t以上・乗車定員30人以上
旧・免許区分 現行・免許区分 新・免許区分

取得要件

現行(平成19年6月~)
普通免許 18歳以上
中型免許 20歳以上(自衛官は19歳も可)
普通免許又は大型特殊免許取得後2年以上経過(一定の自衛官を除く)
大型免許 21歳以上(自衛官は19歳も可)
中型免許、普通免許又は大型特殊免許取得後3年以上経過(一定の自衛官を除く)
新(29年3月12日施行予定)
普通免許 18歳以上
準中型免許 18歳以上
中型免許 20歳以上(自衛官は19歳も可)
普通免許又は大型特殊免許取得後2年以上経過(一定の自衛官を除く)
大型免許 21歳以上(自衛官は19歳も可)
中型免許、普通免許又は大型特殊免許取得後3年以上経過(一定の自衛官を除く)

平成19年改正・中型免許の導入背景

昭和35年の道路交通法制定時に比べ貨物自動車の大型化が進展し、その結果、貨物自動車の交通死亡事故の遠因となっていると考えられた。

これら自動車の大型化による事故防止を目的として自動車免許制度が平成19年(2007年)6月改正施行され中型免許制度が創設された。

近年の交通死亡事故の第一当事者別発生状況によると貨物自動車による死亡事故の発生率が高く、また死亡事故抑止対策の効果が他の自動車と比較して貨物自動車は低い傾向があった。

さらに死亡事故件数を車両総重量別にみると5tから8tと11t以上において多い傾向があり、 また事故パターンは左折事故や追突事故など内輪差や制動距離等に関する技能・知識の不足に起因するとみられる事故類型が多いのが特徴であった。
平成19年の改正前は車両総重量8tを基準として普通自動車と大型自動車を分け、これに対応して普通免許及び大型免許の二種類であった。
また車両総重量11t以上の特定大型自動車は大型免許を受けていても21歳以上で運転経験年数3年以上ある者でなければ運転することができないことと規定されてはいたが、 改めて技能・知識を確認することは必要とされていなかった。

そこで貨物自動車の大型化に伴う運転者の技能・知識の不足による貨物自動車の事故を抑止するため新たな車両区分(中型自動車)が設けられた。
2006年6月に道路交通法が改正公布され2007年6月2日に施行され、これにより、「普通自動車」、「大型自動車」に加えて 中型自動車が定義され対応する免許として「中型免許」「中型第二種免許」及び「中型仮免許」が新設された。

中型免許導入(法改正)後の影響及び要望

運転免許は、車体の重さと積載量を合わせた最大総重量が5トン未満に対応した「普通免許」、5t以上11t未満の「中型免許」、 11t以上の「大型免許」の3種に分類され、普通免許は18歳以上で取得可能で、中型免許取得要件は普通免許取得後2年と制定された。
運送業者や宅配業者が集配で多用する積載量2tクラスのトラックの大半は、総重量5t未満ではあるが、車両自体が環境に配慮してハイブリッド化するための装備や、 荷台に冷凍・冷蔵装備等の設置により車両総重量が5tを超え、普通免許で運転できる職業車が限定されることとなった。

そのため全日本トラック協会は、「普通免許で運転できる職業車が減り、ドライバーを雇いづらい状況にある」と指摘し、 また全国高等学校長協会も「新卒者の就職の機会が狭まっている」と主張し、ともに普通免許で総重量6.5tまでの運転を認めるよう求めていた。

準中型免許新設の提案

現状教習車両

普通免許

乗車定員5人以上の専ら人を運搬する構造の普通自動車で輪距1.30以上

長さ 4.40m以上4.90m以下
1.69m以上1.80m以下
最遠車軸 2.50m以上2.80m以下
中型免許

乗車定員5人以上の専ら人を運搬する構造の普通自動車で輪距1.30以上

長さ 7.00m以上8.00m以下
2.25m以上2.50m以下
最遠車軸 4.10m以上4.40m以下
最大積載量 5.000kg以上6.500kg未満

職業運転者の雇用や新卒者の就職問題を解決するため、中型免許の取得年齢を現行の20歳以上(普通免許又は大型特殊免許取得後2年以上経過(一定の自衛官を除く))を 18歳へ引き下げる案もあったようだが、上記、運転免許試験車両(教習車両)の比較において、 18歳の免許不保持者に普通車の運転経験をすることなく中型車両においての免許取得訓練(教習)あるいは普通免許取得後すぐに中型免許の取得は能力的に見ても現実的でなく、 また事故防止の観点から見ても不可能であると結論づけされた。
そこで普通免許と中型免許との間に準中型免許を新設し、準中型免許を取得するため普通自動車教習と小型貨物自動車教習を結合させたカリキュラムを作成し、 18歳の免許不保持者が直接準中型免許を取得でき、小型貨物自動車(車両総重量が5tを超え、最大積載量は2tクラスの職業用貨物トラック)を運転することができるようになれば、 先のドライバー不足や高卒者の就職に関する問題点も解決できそうだ。

準中型免許
免許区分 車両総重量7.5t未満・最大積載量3.5t未満(未定)・乗車定員10人以下
取得要件 18歳以上
教習車両 小車格トラック
最大積載量2t、車両総重量5t以上、車体の大きさは普通免許教習車両と同様。
長さ 4.40m以上4.90m以下
1.69m以上1.80m以下
最遠車軸 2.50m以上2.80m以下
車両総重量 5,000kg以上
※検定で使用する車両については公平性の確保のため次番者を同乗させるためダブルキャブであることが必要。
教習時限 普通免許(MT)から準中型免許を取得する場合:13時限(第一段階4時限、第二段階9時限)
普通免許を先行取得することなく準中型免許を取得する場合:42時限(第一段階18時限、第二段階24時限)
※第一段階では普通車(セダン)14時限、準中型車(トラック)4時限。
※第二段階では普通車(セダン)15時限、準中型車(トラック)9時限。

免許取得の流れ(今後実験教習を経て確定)

※普通免許を先行取得することなく準中型免許を取得する場合

免許取得の流れ(今後実験教習を経て確定)

準中型免許の教習のポイント

自動車の機構や取扱いから貨物輸送における危険性までの全てを体得させ、実務に即した運転スキルから、交通社会における弱者と強者の違いはもちろん、 道路における乗用車と貨物車の危険特性等も理解した安全マインドを身につけた運転者の育成が望まれる。
普通免許教習と準中型教習を結合させ教習を行う上で両者を常に比較しながら様々な場面においての状況判断ができるよう、豊富な知識や経験をもとにした指導が必要となる。
具体的には操作性においての内外輪差や車両誘導、オーバーハング等の車体感覚的なことよりも、視界や視野の違いや死角、 高さに関する危険性に重きをおいた内容でパネル型トラックを想定した運転なども盛り込まれることになりそうだ。

今後決定するであろう3つの内容

運転免許区分の新設の最大の問題は、中型免許区分の新設からわずか数年しか経過しておらず、経過分析が十分に行われていない現状おいて、 新たに改正(新設)することと思われるが、諸問題を解決することができる準中型免許区分新設であれば喜ばしいことである。
ただ私見ではあるが、今回の新設にあたり、まだまだ未確定な箇所があるなかで、3つの疑問が浮上した。

  1. 準中型免許が新設された場合、平成19年改正時にも発生した既得権益での中型免許8t限定と同様に、現普通免許所持の方が「準中型免許5t限定」となるのだろうか?
  2. 準中型免許区分における最大積載量は3.5t未満となるのだろうか?
  3. 現状の普通免許取得者を100とした場合、約60がAT限定での取得であり、今後さらにその割合は増えると思われるが、そのような現状の中で、一体どれくらい準中型免許を取得するのであろうか?

各車種の説明

大型貨物車両
大型貨物トラック
大型貨物車両です。最大積載量は10トン以上。車両総重量は約25トンです。
中型貨物車両
中型貨物トラック
中型貨物車両です。 最大積載量は4トン。車両総重量は8トンです。
これが平成19年までの普通免許で運転することができました。
ただこのサイズの車両の事故が多いため、中型免許新設の運びとなりました。
2トンショート
2トンショート
中型免許新設に伴い、普通免許ではこの2トンクラスの車両までとなりました。最大積載量2トン、総重量は4トンから5トン未満です。
2トンロング
2トンロング
これも2トントラックで普通免許でも運転できます。
2トンワイドロング
2トンワイドロング
さらに調べてみるとメーカーも普通免許で運転できるよう車両総重量を5トン未満に抑え製造しています。この車両も普通免許で可能です。
2トンユニック車
2トンユニック車
ただし2トン車でも架装した場合、車両総重量が5トンを超え、普通免許で運転することができなくなり、今回の準中型免許新設の運びとなりました。
保冷車
保冷車
これも普通免許では運転できません。
高所作業車
高所作業車
これもバツ
新普通貨物車両
新普通貨物車両
準中型免許が新設された場合の新普通免許で運転できる車両は総重量3.5トン(これは確定)、最大積載量2トン(おそらく)となるとほぼ運転できなくなります。
写真の車両は総重量約2トン、最大積載量は0.8トン。 市販されているものではこれくらいです。
2トン貨物トラック
2トン貨物トラック
最大積載量1.5トンの貨物車両もありますが、総重量が3.5トンを超える設計になっているため、これも新普通では運転できません。
準中型の教習車両はおそらくこのサイズになると思われます。
※全長、全幅は現在の普通教習車と同サイズ

準中型新設における効果(平成28年6月7日追記)

来春(平成29年3月12日施行予定)から導入される準中型免許区分の全容が確定する中で、導入される背景の一つである業界の慢性的なドライバー不足を解消するための若年層(18歳)運転者の育成が果たして実現されるのであろうか。

今回新設される準中型免許区分において車両総重量が7,500キログラム未満、最大積載量は4,500キログラム未満の車両まで運転することができることとなる。

これは平成19年6月以前の普通免許(現在の中型8トン限定)区分である車両総重量8,000キログラム未満、最大積載量5,000キログラム未満と比較しても大差がないことはわかる。

ただし、車両総重量が7,500キログラム未満というのは一般的な4トントラック(最大積載量4,000キログラム)では総重量が超えることとなり 、
準中型免許で4トントラックを運転することは現状の一般的な市販車両では運転することは無理ではあるが、最大積載量3,500キログラムクラスや2,000キログラムクラスのワイドボディーや架装車両等の業務車両であれば十分、運転可能となる。
(今後、メーカーの対応により車両総重量7,500キログラム以下で最大積載量が4,500キログラム未満の車両が量産される可能性はあると思われるが。)

つまり準中型免許所持者であればコンビニ系の配送や一般宅配業、重機運搬を要する建設業や土建業、車業界におけるキャリアカーやレンタカー業界など幅広い業種でドライバーとして従事ができるため、若年層ドライバーによる業界における運転者不足問題解決の糸口となることは間違いない。
さらに準中型免許は18歳で取得可能なため、高校生の就職事情についての問題も解消される可能性も考えられる。

教習種別 技能教習(実技)時限数 学科教習(座学)時限数
第一段階 第二段階 合計 第一段階 第二段階 合計
免なし→準中型 18 23 41 27
普MT→準中型 4 9 13 1
普AT→準中型 8 9 17 1
準中型→中型 5 4 9 0 0 0
準中型→大型 10 13 23 0 0 0
5トン限定解除 4 0 4 0 0 0
AT5トン限定解除 8 0 8 0 0 0

準中型免許5t限定

平成28年3月12日から新法が施行となるため、平成19年改正時にも発生した既得権益での中型免許8t限定と同様に、平成29年3月11日までに普通免許を取得した場合は、新法施行以降は準中型免許5t限定所持となり、これまでと同範囲での車両を運転することができる。

逆に改正後の普通免許取得の場合は同内容の教習時限を履修し、かつ同基準の技能試験に合格したとしても、車両総重量で1,500キログラム、最大積載量では1,000キログラム分が減数となり、運転することができる車両サイズが制限されることになる。

そのため同じ普通免許であっても新法施行前と施行後での取得では運転可能な車両のサイズに大きく差が出ることから、新法施行前の駆け込みによる普通免許取得者で溢れる可能性があり、早期の取得が有効と思われる。

施行前の免許取得とは、自動車教習所を卒業するだけでなく、運転免許試験場にて本免学科試験等に合格後、交付を受けることが必要で、一般的に通学による免許取得では平均2、3ヶ月が必要なことから年内中に入校したとしても確実とは言えない。

さらに施行日(3月12日)が日曜日のため、平成28年3月10日(金)が試験場での交付最終日となり、教習所卒業日は3月9日(木)までが既得権益確保のための条件となる。

そうなると短期間での取得が可能な合宿型免許取得であっても遅くとも2月下旬には入校しておかなければならないが、合宿型免許取得は定員が決まっており、なによりも早期申し込みをしておくことが望ましいと思われる。

準中型免許区分取得における教習内容

全く運転経験のない、運転免許未所持者が準中型免許(小型貨物)を取得し、該当する車両を運転することの危険性および問題はないのであろうか。
そもそも平成19年の法改正により新設された中型免許区分の背景として、それまでの乗用車型教習車両およびカリキュラムでの教習(試験)のみで、車両総重量8,000キログラム(最大積載量で5,000キログラム)クラスの貨物車両を運転することが可能であり、それにより操作不良や車両特性を理解することができず、それらに基づく事故が多発したことが要因となっていた。
それにより中型免許区分(中型貨物)取得に即しては、運転経験であるとか車両特性を考慮した教習カリキュラムにより実施されるようになった。

今回の準中型区分における教習車両サイズは以下の通りとなる。
全長4.4メートル以上
全幅1.69メートル以上
車軸2.5メートル以上
前輪輪距1.3メートル以上

サイズ的には乗用車タイプの教習車両と同サイズのため、車両や車輪感覚および車両サイズがもたらす危険を理解するための「隘路への進入」、「路端における停車および発進」及び「後方感覚」等の課題が教習カリキュラムからは除外された。
ただし、小型サイズとはいえ、乗用車タイプの車両との違いがあり、貨物自動車の特性を理解させ、事故を未然に防ぐ運転行動をとるための訓練として、

「車両特性に基づく運転死角と車両感覚等を理解した運転操作」
「運転操作が貨物に与える影響を理解した運転」
「荷重が運転操作に与える影響を理解した運転」
「パネル型トラックを想定した運転」

等の教習カリキュラムが実施されることとなる。
なかでもパネル型トラックを想定し、ルームミラーを活用せず(活用できない状態にし)にサイドミラーにおいての安全確認を徹底させることにより、よりバックミラーの死角に対しての直接目視確認の重要性や合図等による他車との意思疎通能力については重要教習項目となる。
つまり今回の準中型免許にかかる教習カリキュラムについては小型貨物を運転するために必要な技量のみならず、貨物自動車を運転するうえでの様々な危険を想定した教習カリキュラムが導入されていると考えられる。

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